うどん二郎のブログ

95年生/横浜/写真

雑誌雑食雑感

雑誌はいまも買うけれど、以前は月に1万円ほども使っていた。なにがそんなに気を惹いていたのかはわからないが、とにかくあれこれ漁っていた。インターネットとは別の、流行を知れる窓口として、そこにアクセスすることで新しいものを探していた。思えばたんなるストレス発散だったのかもしれない。服や食事にそれほどお金を使う気がなかったから代わりに雑誌に充てていたのだろうか。書店の気さくな店員さんには「美容師の方かと思いました」と言われるほどだった。つまり美容院で客に読ませる用に大量に買っていたのか、と疑われたということだ。

読んでいた種類は多かった。『POPEYE 』や『BRUTAS』『CASA BRUTAS』などのカルチャー系、『メンズノンノ』『MENS FUDGE』『MENS La La Begin』『UOMO』などのファッション誌、『MONO』や『Begin』などのモノ系、『週刊文春』『週刊新潮』『週刊朝日』『サンデー毎日』『AERA』などの週刊誌系、そして女性誌、とくに『GINZA』や『SPUR』を読んでいた。『pen』や『EYESCREAM』、『STUDIO VOICE』『i-D』『relax』『Unplugged』『TRANSIT』もコアな情報が載っていてワクワクしたし、愛読していたと言っていいと思う。

情報が編集部の手によって独自にキュレートされてあることと、活字だけではなく写真やイラストで多方向から訴えかけてくる点がたぶん好きなのだと思う。文庫本や単行本を読むときとはまたことなる読書のあり方。動画ほど流れる時間が一定ではない、写真集や漫画ほど読み飛ばすスピードが速くない、という点。独特の時間感覚が享受できる。

たいていの場合書き手が一人ではないことも退屈させないポイントかもしれない。一人だとどうしても起伏が生まれにくい。その緩慢さに付き合うということも楽しさのひとつではあるけれど、筆者は話題や語りが多岐にわたっているほうを好む。知らない書き手を探すのも楽しい。こんな人いたんだという驚きを、インターネットではなく紙の媒体で体験できる歓びは大きい。

なにが流行っているのかを知るにはインターネットを見ればいいけれど、文化産業の側が、なにを流行らせようとしているのか、あるいはなにがかっこいいと思っているのかを知るには複数の雑誌を比べ読みするのがよかったりもする。もちろん定番企画というのはあって、毎年同じテーマで特集を組んでいることもあるからインターネットと雑誌の価値観の違いを毎回発見できるわけではないが。

体感の話だから異論があるやもしれないが、たとえば『POPEYE』は2016年に「ジャズと落語」という特集を組んでいる。かなり偏ったテーマだと思われるが、当時「しぶらく」(渋谷)など若者にアピールした落語イベントが多く開催されていた。ここは筆者の記憶だが、一拍遅れてかほぼ同時に若者の落語ブームが来たように思えた。銀座や新宿、浅草あたりの街が話題に上がることが増えた気もする。ヒップホップブームが訪れてジャズも一時期盛り上がった。マガジンハウスの「シティ」な文化を追っている若い人は、けっこういるのではないか。

テレビほどインターネットの後追いではなく、かといってTikTokほどティーン向けの文化ではない、と感じるちょうどいいあんばいの速度のメディアが、いまもなお筆者にとって雑誌であり続けている。